精神科の"常識"に戸惑った話【急性期から転職した最初の1ヶ月】
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急性期から精神科に転職した最初の1ヶ月、「こういうものなのか?」と思った場面がいくつかありました。物の扱い方、記録の仕方、患者さんやご家族への対応——何もかもが違いました。
一般科急性期で叩き込まれた「常識」が、精神科では通用しない場面が確かにあります。ただ、それは精神科がおかしいのではなく、文化が違うということです。
この記事を読むと、精神科転職後に「え?なんで?」と戸惑う場面を事前に知ることができます。心構えができていれば、最初の1ヶ月をずっと楽に乗り越えられます。
精神科への転職を具体的に考え始めているなら、まず話を聞いてみるだけでも気持ちが整理されます。一人で抱え込まずに、まずは相談してみてください。
一日中、鍵を回す生活が始まった
転職初日、ナースポーチを腰につけようとしたら止められました。
「精神科ではナースポーチは使えません」
急性期では当たり前のように腰につけていたポーチ。ハサミ、ペン、アルコール——すべて入れていました。それが使えない。代わりに渡されたのは、鍵の束でした。
精神科の病棟は、至るところに鍵がかかっています。病棟の出入り口、処置室、薬品庫、倉庫——何かをするたびに鍵を差し込んで回します。一日の中で鍵を回す回数を数えたら、おそらく数十回では済まないと思います。
鍵の束は、服にカラビナでがっちり固定することが義務付けられています。伸縮するストラップをつけて、ポケットや腰のベルト通しに引っかける。夜間の見回りのときは、鍵がじゃらじゃらと音を立てないよう、束をしっかり握って歩きます。眠っている患者さんを起こさないためです。
先輩から聞いたエピソードがあります。鍵穴に差し込んで回したとき、鍵の先端が折れて鍵穴の中に埋まってしまったことがあった、と。それほど一日に何度も使うということです。
なぜナースポーチが禁止なのか。理由はシンプルです。興奮した患者さんに引っ張られるリスクがあるから。ストラップが首にかかれば、それ自体が危険になります。精神科では、スタッフが身につけるものにも安全上の配慮が求められます。
最初は不便に感じました。でも理由を知ってからは、納得しました。
保護室の扉を初めて見たとき
精神科に入職して間もないころ、業務の中で保護室(隔離室)に入る機会がありました。患者さんの洗面の見守りと、部屋の掃除です。
保護室には2種類あります。一つは、通常の病室と同じように看護師の鍵で開けられるタイプ。もう一つは、分厚い頑丈な扉に、回転式のドアノブが上・中・下の3か所についているタイプです。後者が、いわゆる「保護室」と呼ばれる部屋です。
その扉を初めて見たとき、思わず立ち止まりました。
「うわぁ……。精神科に来たんだな」
気持ちが重くなりました。正直な感想を言えば、「これって監禁じゃないか」と思いました。
研修では、精神保健福祉法という法律に基づく「治療的隔離」であることを学びました。簡単に言うと、保護室に入れることができるのは、次のような場合に限られています。
- 自傷行為や自殺企図の危険が切迫しているとき
- 他の患者さんへの暴力や著しい迷惑行為が、他の方法では防ぎきれないとき
- 興奮状態が激しく、通常の病室では安全を確保できないとき
そしてこれらはすべて、「隔離以外に方法がない」という条件を満たしたときに、医師の指示のもとで行われます。制裁でも懲罰でもありません。あくまで患者さん自身と、周囲の人を守るためのものです。
法的根拠も、要件も、頭では理解できました。でも気持ちがついていきませんでした。
そのころ、先輩看護師にこう言われました。
「あなたの感覚は正しい。そしてそれをずっと忘れず持ち続けてほしい。鍵をかけて患者さんが自分から出られなくすることは、自由を・行動を制限すること。つまり人権を制限することだ。だからこそ私たちは、それが本当に患者さんのためになっているのかを問い続け、できるだけ早く出てもらえるよう、できることをしていかなくてはいけない」
その言葉は今も残っています。
入職して3年が経ちます。最初の頃の違和感は、だんだん薄れてきました。それが良いことなのか、悪いことなのか、正直わかりません。ただ、鍵をかける「ガチャン」という音を聞くたびに、「早く出してあげたい」「これでいいのだろうか」という思いが、今も頭をよぎります。
保護室に入るには、ちゃんと理由があります。自傷の危険、他者への暴力リスク、激しい興奮状態——こういった条件を満たしたとき、そして他に方法がないと判断されたときにだけ、使われる部屋です。「言うことを聞かないから」「手がかかるから」という理由で入れることは、あってはなりません。
実際、保護室での隔離によって、誰も傷つけることなく安全が確保されたケースを、私は何度も見てきました。「この部屋がなかったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない」と思う場面もありました。
それでも、鍵をかけるたびに罪悪感を感じています。完全に折り合いがついているかと言えば、正直、まだついていないかもしれません。
ただ、この感覚を持ち続けることが、精神科看護師として大切なことだと、今は思っています。
ハサミは自分のものじゃない——物品管理と持ち込み制限の徹底
スタッフの持ち物
急性期では、自分専用のハサミを持っていました。ナースポーチの中に入れて、必要なときにさっと取り出す。それが当たり前でした。
精神科では、ハサミの持ち込みは禁止です。必要なときはナースステーションから持ち出し、使い終わったら必ず返却します。一日の終わりには、看護補助者さんがハサミの本数を数えます。駆血帯も同様に個数管理されています。
聴診器も同様です。私が勤める病院では、個人の聴診器は使用せず、病棟共用のものを使います。急性期では自分専用のものを使っていたので、最初はこれも驚きでした。
最初は「そこまでするのか」と思いました。でも考えれば当然です。ハサミ一本が、患者さんの命に関わる可能性がある場所です。
患者さんとご家族の持ち物
入院時には、持ち込み禁止品のリストをご家族にお渡しします。私が勤める病院では、ズボンの紐・パーカーの紐・コード類(スマートフォンの充電器・電気シェーバーなど)は持ち込み禁止です。スマートフォン本体は許可されていても、充電コードはナースステーションで預かって、そこで充電します。
ところが、リストをよく読まずに持ってこられるご家族が少なくありません。紐つきのズボン、紐入りのパーカーを着てきた患者さんに、その場でお持ち帰りいただくか、紐を抜いていただくようお願いすることになります。
「なんでですか?」という声が返ってくることがあります。
正直に言うと、私もご家族の立場だったら同じように思うと思います。突然「その服はだめです」と言われたら、戸惑いますよね。だから責める気持ちにはなれません。ただ、毎回丁寧に説明しながら対応する場面は、精神科ならではのストレスの一つだと感じています。
紐一本、コード一本が、なぜ禁止なのか。首に巻きつければ自傷の道具になるからです。それが精神科という場所の現実です。
急性期から来た私も、最初は「そこまで?」と思いました。でも今は、これが精神科の文化だと理解しています。
申し送りの中身がまるで違う
急性期の申し送りは、病状が中心でした。バイタルの数値、検査データ、医師からの指示、処置の内容——次のスタッフが患者さんの「状態」を把握するための情報が中心です。
精神科の申し送りは違います。
「昨夜は眠れていました」「今朝の表情は少し硬かったです」「○○さんと△△さんの間でトラブルがありました」「頓服を2回使用しました」——患者さんの「生活と精神状態」が中心になります。
最初は「これだけでいいのか」と思いました。バイタルの数値や検査データがほとんど出てこない申し送りに、物足りなさを感じたのです。
でも考えてみれば当然です。精神科の看護は、病状を管理することより、その人の生活と精神状態を支えることが中心です。「昨夜眠れたかどうか」は、精神科では最重要情報の一つです。申し送りの内容が、そのまま看護の価値観を表していると、今は思います。
紙カルテの洗礼
急性期では電子カルテでした。入力すればすぐ共有される。検索もできる。スピーディーでした。
精神科に転職して驚いたのが、紙カルテだったことです。
手書きで記録を書く。医師の記録を読もうとすると、文字が読めないことがある。「これは何と書いてあるんだろう」と解読に時間がかかることが、最初のころはよくありました。
実は、精神科は電子カルテの普及が他の診療科より遅れています。長期入院の患者さんが多い精神科では、何十年分もの紙カルテが存在します。それをすべて電子化するのは、コスト面でも作業量の面でも簡単ではありません。
これは私が勤める病院だけの話ではなく、精神科全体に共通する現状です。転職前に知っておくと、心構えができると思います。
細かいけど気になったこと
ごみ箱の色分けが違う
急性期では、感染性廃棄物のごみ箱が3色に色分けされていました。精神科に来ると、分類が簡略化されていました。
最初は「こういうものなのか?」と思いました。ただ、精神科では血液や体液を扱う処置が急性期より少ないという現実があります。これも私が勤める病院の話であり、施設によって対応は異なります。
ウロバッグにカバーがない
急性期では、膀胱留置カテーテルのウロバッグに目隠しカバーをつけていました。精神科に来てからは、カバーがありません。
最初は気になりました。こちらも施設によって対応が異なります。あくまで私が勤める病院の話です。
患者さんが私の子供の年齢を覚えていた
急性期では、退院したら関係が終わります。回復して帰っていく患者さんを見送る。それはそれで充実感がありますが、その後の関係はありません。
精神科では違います。
再入院してきた患者さんが、声をかけてくれることがあります。「子供は今何年生になった?」
以前に少し話したことを、覚えていてくれた。その一言に、驚きと温かさを感じました。
急性期では起きなかったことです。精神科では、たとえ入院と退院を繰り返していても、関係性が少しずつ積み重なっていきます。
その積み重ねには、実務的なメリットもあります。再入院してきた患者さんの「いつもの状態」を知っているから、「今回はいつもより状態が悪い」という判断ができます。状態が悪くても、「この人は必ず回復する」という見通しが持てます。
まとめ:戸惑いの正体は「文化の違い」だった
鍵、ハサミ、申し送り、カルテ、持ち込み制限——すべて精神科の文化には理由があります。
転職して最初の1ヶ月で感じた「こういうものなのか?」は、3ヶ月後には「なるほど、そういうことか」に変わっていました。
戸惑いは必ずあります。でも、理由がわかれば納得できます。「なぜそうなのか?」という疑問を常に持ち、根拠を明確にし、それをもとに看護をしていく。これはまさに、あなたが行っていることだと思います。これまでの経験で培った感覚は絶対に武器になります。戸惑いながらも、乗り越えられます。
精神科転職を具体的に考え始めたなら、まず動いてみることをおすすめします。一歩踏み出してみることで、見えてくるものが必ずあります。
精神科転職に関する記事は、こちらのページに不安の種類別でまとめています。