精神看護学実習でやりがちな5つの失敗【受け入れ側の看護師の本音】
精神科実習で、患者さんを怒らせてしまった。質問しすぎて、疲れさせてしまったかもしれない。もしかしたら、担当を外されるかもしれない——。
そんな不安を抱えて、この記事にたどり着いた方もいると思います。
先に結論を言います。精神科実習での失敗の多くは、真面目で一生懸命な学生さんだからこそ起きるものです。そして、失敗そのものであなたの実習が終わることは、まずありません。
この記事では、精神科病棟で実習生を受け入れている現役看護師の立場から、学生さんがやりがちな失敗と、受け入れる側が本当はどう見ているのかをお伝えします。
その失敗、真面目だからこそ起きる
最初に伝えたいことがあります。
これから挙げる失敗は、どれも「サボっている学生」の失敗ではありません。記録を仕上げようと必死で、患者さんのことを知ろうと一生懸命で、沈黙が申し訳なくて——そういう真面目さが、精神科では裏目に出てしまうことがあるのです。
そしてもう一つ。一般科の実習でうまくやれていた人ほど、精神科でつまずきやすいという側面もあります。この理由は、後半で説明します。
失敗①:質問攻めにしてしまう
精神科実習は期間が短いわりに、やることがたくさんあります。情報収集、アセスメント、看護計画の立案、実施、評価。記録を書くためには情報が要る。だから、短時間にたくさん質問してしまう。
でも、患者さんの側から見るとどうでしょうか。次々と質問される。まるで尋問されているような気持ちになる。「なぜこんなに聞いてくるんだろう」と、警戒心が強くなっていきます。
実際にあった話をします。
ある学生さんが、担当の患者さんと穏やかに、にこやかに話していました。いい雰囲気だなと、私たちも見ていました。ところが数日後、患者さんから「学生さんを外してほしい」という申し出があったのです。
わけを聞くと、「いろいろ聞かれすぎるのが辛くなった」とのことでした。
その患者さんは統合失調症の方でしたが、自分が病気であるという認識がありませんでした。いわゆる「病識がない」状態です。それでも学生さんは、「何か声が聞こえてくることはありますか?」「考えがまとまりにくいことはありませんか?」と、症状について詳しく聞こうとしていました。
学生さんとしては、統合失調症の症状がその患者さんにどう現れているのかを知りたい。でも患者さん自身は、自分を病気だと思っていない。「病気ではないのに、なぜそんなことを聞かれるのか」——その温度差が、少しずつ患者さんを苦しめていたのです。
どちらにも、悪気はありませんでした。学生さんは一生懸命だっただけです。だからこそ、私たち看護師の介入がもっと早く必要だったと反省した事例です。雰囲気が良かったので、私たちも安心しきっていました。
この話には、続きがあります
担当を外してほしいと言われた学生さんが、その後どうなったか。
結論から言うと、そのまま担当を続けることができました。
看護師から患者さんに、こう伝えました。慣れない実習のなかで、あなたのことを知りたいと一生懸命になりすぎてしまったようです。悪気はまったくありませんでした。そして、私たちの配慮が足りませんでした——謝罪とともにそう伝えると、患者さんは「そうだったのか」と納得し、実習を受け入れ続けてくださいました。
学生さんに対しても、まず事前の説明が足りなかったことを謝りました。そのうえで、関わり方の注意点をお願いしました。学生さんはそれをしっかり守ってくれて、最終的にはとてもいい実習になりました。
途中で何かうまくいかなくなっても、看護師が適切に介入すれば、実習は続けられます。だから、困ったことがあったら、抱え込まずに何でも言ってほしいのです。
質問しなくても、情報は集められる
では、質問攻めにならずに情報を集めるには、どうすればいいのか。
一番の方法は、まず観察することです。表情、服装、座る場所、落ち着きがあるかどうか、生活のリズム。
たとえば、食事を半分残していたら、「食欲が落ちているのかもしれない」。一人で座っていて表情が冴えなければ、「気分が落ち込んでいるのかもしれない」。観察から仮説を立てます。
そのうえで、必要最小限だけ確認します。「今日はお一人で過ごされていたようですが、いつもと違う感じですか」「お食事を残されていたようですが、調子が良くないですか」。
事前の観察に基づいた質問、事実に基づいた質問なので、患者さんも答えやすいのです。
質問の数が少なくても、的を射ていればいい。情報は、量よりも質です。観察から仮説を立て、必要なことだけを確認する。それができれば、関係性を崩さずに情報収集ができます。
失敗②:沈黙が怖くて、話し続けてしまう
緊張すると、どうしても沈黙が怖くなります。患者さんが黙ると、何か話さなければと焦って、自分から話し続けてしまう。
以前、ある学生さんが患者さんとの面談を終えて、報告に来てくれました。「30分も話して、たくさん情報が取れました」と。
そのとき私が最初に思ったのは、「患者さん、疲れていないかな」ということでした。30分は、精神科の患者さんにとって決して短い時間ではありません。
その学生さんは続けて、「患者さんが少し黙ったので、話題をこちらから変えてみました」とも言っていました。おそらく、沈黙に耐えられなかったのだと思います。
一生懸命に関わってくれていたことは、よく伝わってきました。だからこそ、少しもったいないと感じました。
精神科では、沈黙も大切なコミュニケーションです。沈黙のあいだに患者さんが考えていること、沈黙のときの表情や仕草——そこから引き出せるもの、観察できるものがたくさんあります。沈黙を恐れずにいられるかどうかは、精神科看護のひとつの技術なのです。
そして、たくさん情報が取れたことよりも大事なのは、患者さんとのあいだに信頼関係が少しでも生まれたかどうかです。
失敗③:励ましてしまう
「自分は駄目だ」と後ろ向きなことを言う患者さんに、「頑張ってください」「前向きになりましょう」と励ましてしまう。
日常会話なら自然な反応です。でも、うつ病などでエネルギーが尽きている患者さんには、励ましがかえって負担になることがあります。頑張りたくても頑張れない状態で「頑張って」と言われると、頑張れない自分をさらに責めてしまうからです。
こういうときは、「辛かったんですね」「そう感じておられるんですね」と、感情をそのまま受け止める言葉を使ってほしいと思います。
なお、最近では「うつ病の人を励ましてはいけない」と一律に言うのではなく、回復の時期によって考える捉え方が主流になってきています。休息が最優先の時期には励ましを控える一方、回復が進んできた時期には、「今日はここまでできましたね」と小さな前進を認める声かけが力になることもあります。
ただ、患者さんが今どの時期にいるのかを見極めるのは、学生さんには難しいと思います。だから実習では、「受け止める言葉」を基本にする。そして「励ましたほうがいいのかな?」と迷う場面に出会ったら、その患者さんをよく知る看護師に聞いてみてください。それ自体が、とてもいい学びになります。
失敗④:会話の最中や直後に、メモを取ってしまう
患者さんと話し終えて、その場ですぐメモを取り始める。記録のことを考えると、気持ちはよくわかります。でも、患者さんから見ると「情報収集された」と感じる行動です。記録のためだけに関わっているような印象を与えてしまい、せっかく協力してくださっている患者さんに失礼にあたります。
では、話しながらメモを取るのはいいのかというと、こちらも基本的には避けるべきだと考えています。
理由は二つあります。一つは、会話の自然な流れが妨げられてしまうこと。もう一つは、精神科ならではの理由です。「何を書かれているんだろう」と気になる患者さんもいますし、なかには「悪口を書かれているのではないか」という妄想につながってしまう患者さんもいるからです。
例外はあります。たとえば患者さんが「便が4日も出ていない」と話されたとき。これは看護師に正確に伝えるべき情報なので、メモを取る価値があります。その場合も、「看護師さんに正しく伝えたいので、メモを取らせてくださいね」と一言断ってから。
黙って書くのと、断ってから書くのとでは、患者さんの受け取り方がまったく違います。原則はメモを取らない。取るなら、理由を伝えて断ってから。これだけ覚えておけば大丈夫です。
失敗⑤:「できていないこと」ばかり探してしまう
実習では精神症状を観察しようとするあまり、「異常なこと」ばかり探してしまうことがあります。
でも、それでは「普通にできていること」を見落とします。
自分で歯磨きができている。挨拶ができている。食堂に時間どおりに行けている。他の患者さんに配慮できている——これらは、回復のサインとして非常に重要な情報です。
とはいえ、こう思った方もいるかもしれません。「そもそも、何が『異常』で何が『回復のサイン』なのか、わからない」と。
その感覚は正しいです。実は、学生さんに担当していただくのは、症状が落ち着いている患者さんであることが多いのです。よほど目立つ言動でもなければ、パッと見ただけで「異常」と「回復」を見分けるのは難しいと思います。
だからこそ、カルテです。その患者さんがどのような経過をたどってきたか。調子を崩したとき、どんなサインが出ていたか。今はどの段階にいるのか。カルテから情報を集めて、その人の「基準線」を知っておく。そのうえで観察すると、「できていること」の意味が見えてきます。
できていないことばかり探していると、できていることまで見逃してしまう。「異常探し」ではなく、その人の全体を見る。これが精神科の観察です。
なぜ、一般科で優秀だった人ほどつまずくのか
ここまでの失敗を並べてみると、あることに気づきます。
私は一般科も経験していますが、一般科での学生さんの失敗は、傾向が違います。観察項目が抜けていた。バイタル測定で基準値からの逸脱に気づけなかった。報告の順番が混乱していた。看護技術の準備ができていなかった——。
つまり一般科で評価されるのは、必要な情報を漏れなく取れる、報告が簡潔、優先順位を考えられる学生さんです。
その「優等生の動き方」を精神科にそのまま持ち込むと、どうなるか。漏れなく情報を取ろうとして、質問攻めになる。効率よく聞き出そうとして、患者さんのペースを追い越す。
両者の違いを、簡単な表にしてみます。
| 一般科の実習 | 精神科の実習 | |
|---|---|---|
| 重視されること | 何を観察したか | どのように関わったか |
| 情報の集め方 | 漏れなく、効率よく | 関係を守りながら、少しずつ |
| 評価される学生像 | 報告が簡潔・優先順位を考えられる | 患者さんのペースに合わせられる |
| 沈黙は | 自然に生まれるもの | それ自体が観察とケアの対象になるもの |
精神科実習でつまずくのは、能力が足りないからではありません。評価軸が切り替わったことに、まだ気づいていないだけです。前の実習での「正解」をいったん手放すこと。それが、精神科実習の本当のスタートラインだと思います。
失敗は、評価にどう影響するのか
とはいえ、一番気になるのは「失敗が実習の成績にどう響くのか」だと思います。
私の病棟の学生担当看護師に、評価の仕組みを聞いてみました。病棟側は、身だしなみ、コミュニケーション、態度などの項目を5段階程度で評価し、それを学校の先生に渡す。先生はそれを参考にして、総合的に評価をつける——という流れだそうです。
そして、こう言っていました。失敗そのものよりも、それを振り返って次に活かせていれば、最終的には良い評価になると。
一看護師としての私の実感も同じです。学生なのだから、失敗するのは当たり前。大事なのはその後の姿勢です。失敗しても逃げずに、自分の改善点を直して、誠実にまた患者さんと関わっていく。私たちが見ているのは、そこです。
こういう学生さんは、素晴らしいと思う
最後に、受け入れる側から見て「この学生さんはいいな」と感じるポイントを挙げてみます。
- 患者さんの名前を自然に呼べる
- きちんと挨拶ができる
- お礼や謝罪が言える
- 沈黙を急いで埋めない
- 患者さんのペースに合わせて、自分の意向を優先しない
- 患者さんや自分の言動について、「なぜだろう」と考えることができる
どれも、特別な知識や技術ではありません。でも、これができる学生さんは本当に素晴らしいと思います。
そして、もし余裕があれば——担当患者さんの「周り」にも目を向けてみてください。
担当患者さんとよく話している患者さんは誰か。一緒に活動している仲良しの患者さんはいるか。食堂に来ていない人は誰か。看護師がどの患者さんを気にしているか。
なぜ担当以外を見るのか。理由は、精神科では「環境」そのものが治療の一部だからです。
精神科病棟は、ひとつの小さな社会です。患者さんはその中で、他の患者さんと関わり、看護師や他職種と関わりながら生活しています。病室も、食堂も、そこにいる人たちも、すべてがその人の治療に関わる「環境」です。だから、担当患者さんの周りを見ることは、遠回りに見えて、実は担当患者さんその人の理解を深めることにつながります。
もうひとつ。看護師がどの患者さんを気にしているかを観察するのは、優先順位のつけ方やリスクを察知する目を、現場から学ぶことでもあります。これは看護師になってから、どの科に行っても必ず必要になる力です。
ここまで見えたら、正直、拍手ものです。求めすぎなのは自覚しています(笑)。でも、視野が「担当患者さん」という点から「病棟」という面に広がったとき、見え方はまったく変わっているはずです。
まとめ
- 精神科実習の失敗の多くは、真面目で一生懸命だからこそ起きる
- 質問攻めより、観察から仮説を立てて必要最小限を確認する。情報は量より質
- 沈黙は怖いものではなく、大切なコミュニケーション
- 励ますより、受け止めるが基本。迷ったら看護師に聞く
- メモは原則その場で取らない。取るなら一言断ってから
- カルテでその人の「基準線」を知り、「できていること」を見る
- 精神科では「何を観察したか」より「どのように関わったか」
- 失敗しても、振り返って次に活かせれば、評価はそこで終わらない
- 困ったことがあったら、抱え込まずに看護師に相談してほしい